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2012/04/09 新薬開発で日本は無力なのか?

 昨年の年末に、日本発の画期的な医薬品作りを目指す内閣官房医療イノベーション推進室長の中村祐輔氏・東京大学医科学研究所教授(59)が、室長の職を辞任して、この4月から米シカゴ大学の教授に移籍することがわかりました。

 中村教授は、今後は米国を拠点に、ガンの新薬などの実用化を目指していくとのことでした。日本の国内新薬開発の旗振り役であった教授が、国内での研究開発に見切りをつけたような格好となり、大きな波紋を呼んでいます。

 内閣官房医療イノベーション推進室とは、昨年の1月に当時の仙石由人官房長官の肝いりで、ノーベル化学賞受賞者の田中耕一氏・(株)島津製作所(52)らを室長代行に迎えて発足し、省庁の壁を取り払い官民一体となって、国家戦略として医療産業の国際競争力を強化していくための司令塔となるべく目指した機関でした。

 ところが発足直後に仙石官房長官は退任され、昨年の10月に開かれた第3回目の医療イノベーション会議には、それまでに出席していた経済産業省や内閣府の政務3役も欠席され、2011年度の補正予算や2012年度の予算案の策定でも、各省庁が勝手に個別の予算要求を出すだけで、「日本全体の画期的新薬開発の青写真を描けなかったのだ(中村教授談)」とのことでした。

 日本のゲノム(遺伝子情報)研究の第1人者で、世界的なヒューマン・ゲノム・プロジェクト(人間の遺伝子情報の全解析)でも中心的な役割を果たした中村教授は、「国の制度や仕組みを乗り越えようと頑張ったが、各省庁の調整機能さえ果たせず、無力を感じた。日本の国内で研究した新薬を、日本の人たちに最初に届けるのが夢だったのだが・・・。」と、話されています。

 わたしも、大阪大学第一内科学教室で肝臓・消化管の研究に従事している際に、ヒューマン・ゲノム・プロジェクトでは、人の肝臓からマクロファージのひとつであるKupffer細胞を単離して提供していただけに、とても残念な気持ちです。

 今年になってから、ジェネリック医薬品利用促進通知事業のひとつとして、各健康保険組合などから被保険者に「自己負担の差額通知サービス」も行われるようになりました。理解のある患者さんもおられるとは思いますが、これでは高価ではあるが優秀な新薬を希望する患者さんはどんどん少なくなり、ますます製薬業の膨大な開発コストが出せ得ない状況を国家が作ってしまうことにも成りかねません。財源の保全も大切ではありますが、このようなことでは、先人の努力の賜物を現代に生きる我々が食いつくし、子や孫の世代には新しくて良いものをなんにも残せていないのかもしれませんね。

 いま現在は世界的に見ても優秀ではありますが、日本の医療の将来には憂いるばかりであります。

 永井医院  永井 裕隆


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